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オックスフォード大学Jan-Emmanuel De Neve教授が語る、Indeed Work Wellbeing Scoreのソーシャルインパクト

オックスフォード大学サイードビジネススクールのJan-Emmanuel De Neve(ヤン・エマニュエル・デ・ネーヴ)教授は、Indeedが2023年4月からサービス展開しているWork Wellbeing Score(ワーク・ウェルビーイング・スコア)の開発に深く携わった人物。このスコアと関連するデータの分析から、職場におけるウェルビーイングと「企業の業績」には相関関係があることや、そこから「株価」も予測可能であることを明らかにするなど、相次いで興味深い知見を導き出しています。9月末の来日時に行ったインタビューでは、Indeedとの協業に至った経緯や、これまでに得られた知見、さらに今後の展望について語りました。

リクルートホールディングス来社時のヤン・エマニュエル・デ・ネーヴ教授の写真

Jan-Emmanuel De Neve教授

ウェルビーイング研究の可能性を無限大にするIndeedの「データ」に惹かれて

事の始まりは2019年、とあるグローバルHRフォーラムに登壇したときのことでした。同じパネルにいたアメリカ人心理学者のSonia Lyubomirsky教授から、「ヤン、あなたをIndeedのチームに引き合わせたいの。Indeedのプラットフォームを活用して職場のウェルビーイングを測定するという、大きなポテンシャルのある面白いプロジェクトを私と一緒に進めている人たちよ」、と声をかけられたのです。当時、Soniaたちは職場の幸福度を測定するためのアンケート項目を検討し始めた段階で、経済学者としてアンケート項目の設計や膨大なデータの分析を行ってきた私の知見を買ってくれたのだと思いますし、職場のウェルビーイングに関する私のこれまでの研究にも大きな関心を持ってくれていました。そして2019年末に初めてのIndeedとのミーティングが実現し、そこから私の研究者人生で最もエキサイティングで実りある協業が始まりました。

研究者として何よりエキサイティングだと感じているのは、月間3.5億人(注1)という驚異的なユニークビジター数を誇るIndeedのプラットフォームから得られる”幅”と”深さ”を併せ持った世界最大規模のデータ。私たちがIndeed上で実施したアンケートには、非常に短期間で1,700万件を超える回答が寄せられ(注2)、しかもこれは今この瞬間も増え続けています。このデータのおかげで、ほぼすべての大手企業(注3)を横並びで比較することが初めて可能になりましたし、職場のウェルビーイングの4つの結果指標と、それに影響を与える11のドライバー項目それぞれの影響度合いや相関関係を見ることも可能になりました。これは学術界にとって重要な意味を持つもので、今後何年にもわたってこのデータから新たな発見が生まれていくと思っています。そして研究の結果として得られたインサイトが求職者や企業の役に立てば、Indeedはじめリクルートグループは社会に大きく貢献できる。学術界、求職者、企業、そしてリクルートグループと、四方良しの結果をもたらす取り組みなのです。

(注1) Comscore、総訪問数、2022年9月
(注2) 2023 Indeed.com data, based on the number of survey responses globally
(注3) サービス展開国のみ

「感情」を構造的に測定し、具体的な打ち手につなげられるのがワーク・ウェルビーイング・スコアのユニークさ

Indeedのワーク・ウェルビーイング・スコアでは、職場におけるウェルビーイングを「Happiness(幸福度)」「Purpose(やりがい)」「Satisfaction(満足度)」「Stress(ストレス)」の4つの結果指標について測定します。Indeedの企業ページには、この4つの結果指標それぞれに対する5段階評価のラベルと、総合評価のラベル、さらに100点満点の総合スコアが表示されます。

ワーク・ウェルビーイングスコアが表示されたIndeedの会社概要ページのイメージ

ワーク・ウェルビーイングスコアはIndeedの会社概要ページに表示される

一般的な従業員アンケートでは、具体的な施策につなげたい企業の思惑を受けて、やりがいやエンゲージメント(貢献意欲)など、「職場」についてどう”考え”るかばかりが問われがちですが、職場にいる「個人」がどう”感じ”ているか、どんな”感情”を抱くのかも測定するのがワーク・ウェルビーイング・スコアのユニークなところです。着想を得たのは英国の国家統計局が行う世論調査で、「あなたは幸せですか?」「ストレスや不安を感じていますか?」という質問を、職場の文脈に置き換えて取り入れました。

4つの結果指標とその計測に使われる質問のリスト

ウェルビーイングの4つの結果指標

また、Indeed上のアンケートには、この4つの結果指標に影響を与える11のドライバー項目に関する質問も含まれており、これが幸福やストレスといった感情を生んだ理由を説明する仕立てになっています。

この11のドライバー項目を、4つの結果指標とは切り分けて考える構造にしたことは、私が特にこだわったところで、一研究者としてこのワーク・ウェルビーイング・スコアの開発に最も貢献できた点だと言えます。15の項目を同じレベルで見ていても何も示唆は得られませんが、ひとたび結果とその推進要因を概念的に区別するだけで、「このドライバー項目に取り組むことがこの結果指標の改善につながるようだ」といった具合にアイディアが湧いてくるんです。CEOや人事責任者、政策立案者などが、どこに予算とリソースを投入すべきかを判断する助けにもなるでしょう。

ウェルビーイングの結果指標に影響を及ぼす11のドライバー項目のリスト。ドライバー項目は、達成感、評価、帰属意識、報酬、やる気、柔軟性、包摂性、学び、上司からの支援、周囲からの支援、周囲への信頼感。

ウェルビーイングの4つの結果指標に影響を及ぼす11のドライバー項目

これまでの分析で、11のドライバー項目のうちBelonging(帰属意識)が最も職場のウェルビーイングに強い影響力を持っていることが分かってきました。一方で、別途実施したマネージャー層への意識調査では、Compensation(報酬)が最も大きい影響力を持つと考えられていて、Belongingはまったく重視されておらず、マネージャー層の直感と現実の間には大きな乖離があります。今後、実態に沿って社内のリソース配分などが最適化されれば、職場のウェルビーイングがさらに向上する可能性も十分あるでしょう。

11のドライバー項目の中で、ウェルビーイングを向上させると思われている項目と、実際に向上させている項目が大きく異なることを示すグラフ

11のドライバー項目の中でBelongings(帰属意識)が最もウェルビーイングに影響していることが明らかに

ワーク・ウェルビーイング・スコアを人的資本のグローバル指標に、そして企業が職場のウェルビーイングに本気で取り組む世界に

ワーク・ウェルビーイング・スコアによって、職場におけるウェルビーイングと「企業の業績」の相関関係も明らかになりました。さらに、株式市場でのパフォーマンスも予測可能だということも分かっています。

個人のウェルビーイングが企業の業績につながる道筋は6つあります―生産性、創造性、健康、人間関係、採用、リテンションです。例えば、従業員が気持ちよく働ければ、個人の生産性が上がります。さらに、定着率も上がり、これが企業のコスト削減につながります。また、より魅力的な職場になり、より多くの人材を惹きつけることができます。

こういったことが、事業収益に中長期的にプラスに働き、株価の予測可能性にもつながります。そう考えると、職場のウェルビーイングと業績や株価との相関には納得感があるのではないでしょうか。なお、これがウェルビーイングを起因とした因果関係であることは、私たちが7年かけて行った別の研究で証明済です。

なお、これらの結果については、ファイナンシャルタイムズをはじめ各種メディアでも大きく取り上げられましたし、学術界でも話題になっていますが、何よりビジネスの世界、特に金融業界で大きな注目を集めています。そしてこれまで、ウェルビーイングは主観的で測定が難しく、企業価値の評価において重視されてきませんでしたが、その状況が変わりつつあります。

まず、格付け機関のS&P Globalが、今年からワーク・ウェルビーイング・スコアと同様の項目について企業に報告を求めるようになりました。また、IFRS財団の国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)にも、ワーク・ウェルビーイング・スコアを人的資本指標として採用するよう、私個人も、Indeedとリクルートホールディングスも意見書を提出しています。

今後ワーク・ウェルビーイング・スコアが人的資本のグローバル指標になっていけば、投資家、格付け機関、ひいては企業のCEOたちが、職場のウェルビーイングを軽視できなくなるでしょう。87%の経営者が「職場のウェルビーイングは競争優位につながる」と考えてはいるものの、実際に注力する戦略に位置づけて優先順位高く取り組んでいるのはわずか35%という調査結果も出ています(注4)。世の中の経営者が有言実行し、職場のウェルビーイング向上に本当に真剣に取り組むよう、リクルートグループにはぜひ後押ししていってほしい。それが幸せに働く人の増加、そしてより良い世界につながると思うからです。

(注4) 出典:ハーバードビジネスレビュー“Cultivating workforce wellbeing to drive business value” 2020年第一四半期実施の調査

ヤン・エマニュエル・デ・ネーヴ教授の写真

Jan-Emmanuel De Neve(ヤン・エマニュエル・デ・ネーヴ)

オックスフォード大学 サイード・ビジネススクール教授

オックスフォード大学サイード・ビジネススクール教授で、経済学と行動科学が専門。ウェルビーイング・リサーチ・センターのDirectorも務める。世界幸福度リポートの共同編集者としても知られ、特に職場でのウェルビーイングに関する研究は学術界でもメディアでも頻繁に取り上げられている

2023年11月21日

※事業内容や所属などは記事発行時のものです。