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さらなるグローバル化にむけて「バリューズ」の価値とシナジーの追求を:リー・イーティン氏

エキスパートから見たリクルートグループ

IESEビジネススクールは、スペインバルセロナを拠点にグローバル人材教育を提供しています。リクルートグループとは数年間にわたって協働し、リクルートをテーマにしたケーススタディもMBAの授業で使用されています。
私も専門のリーダーシップ、クロスカルチュラル・マネジメントの研究の一環として、この数年、東京やバルセロナでリクルートグループの経営陣や従業員の皆さんにインタビューしてきました。そのなかで最新の動向を学び、リーダーシップについて意見交換をしました。リクルートの方たちとのディスカッションは、常に私の東京出張の目玉イベント。皆さんのパワフルさ、創造性、熱意にはいつも感銘を受けます。

「成果主義」と「個の尊重」をバランスさせている企業文化

リクルートは業績目標(EBITDAなど)を重視した、非常に成果主義的な企業です。それ自体は事業の成功を願う企業ならば当然のことでしょう。しかしリクルートの面白いところは、好業績を実現するまでのアプローチにあります。業績を達成しながらもイノベーティブであり続けるために、個人や事業ユニットに驚くべき権限を与えて主体性を求め、価値創造のプロセスのなかで起業家精神を発揮できるようにしています。従業員を信頼し、若手でも生み出した新しいアイデアを自ら実行できるようにしています。そして、リクルート事件を含めたかつての過ちに向き合い、学び、より強くなろうとしています。

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リー・イーティン 李逸庭 IESE ビジネススクール組織経営学教授

多くの企業には理解し難いであろうこれらのユニークさは、世界でリクルートグループをリーダー企業に押し上げる可能性を秘めていると思います。私見ですが、この成果主義のアプローチと個人を尊重する思想をバランスさせるのに欠かせない働きをしているのが企業文化です。リクルートグループは、ビジョン・ミッション・バリューズ(VMV)において、グループ全体の全ての事業活動とイノベーションを通じて「社会に貢献すること」の重要性を強調しています。この点について経営陣も従業員も共通認識をしっかり持っており、これを実践しながら自分の職務を果たそうとしています。実際に、メンバーそれぞれが社会に貢献したいという個人的な情熱を業務上の取り組みを通じて実現しようとし、それがイノベーションを生み、グループひいては社会に価値をもたらすことにつながっています。

自律性、多様性の尊重の裏でシナジーの機会を逃していないか

各事業のトップが主体的に事業運営できるよう配慮してきたこともユニークだと思います。各SBUで事業内容が多岐にわたり、地域密着型の事業もあることを考えると、これは確かに賢明な選択です。海外でのM&Aにおいても、2000年初めの中国でのブライダル事業進出と撤退の経験からか、本社の介入を最小限に抑えようとする傾向がありました。これらの配慮が、多様性をおおいに尊重し、各事業の自律的運営を可能にしているのでしょう。

しかし行き過ぎると、グループの豊かな多様性を活用したり、シナジーによってイノベーションを生んだりする機会を逃す可能性もあります。一見すると関連のなさそうな点と点をつなぐことが、イノベーションの本質。事業ユニットや文化を越えて、公式または非公式にグループ内の人と人をつなぐことで、そういった機会をうまく掴める可能性があります。従業員の皆さんへのインタビューでも、そういったシナジーを求める声が聞かれました。

VMVに込めた本質を理解し戦略的に文化をつなぐ挑戦を

戦略的に文化をつなげば、グループ内で実りのある交流が促され、シナジーや新規事業開発の機会が生まれます。そのためには橋渡しの仕組みをリクルートグループの経営陣やリーダーが構築していく必要があります。認知・感情・行動の各レベルで連携を生むためのアクションも必要です。ただしそれらは、従業員や事業の主体性を重んじる企業の文化が損なわれることのないよう、慎重に進めなくてはなりません。そこでカギとなるのが、ビジョン・ミッション・バリューズの力だと私は思います。

VMVに示されているリクルートの文化は、社会的目的と行動規範の下でグループのメンバーを団結させる共通基盤として、重要な役割を果たすはずです。この基盤があれば、一人ひとりが社会に貢献するという目的でつながりながらも、それぞれ独自の方法で貢献できるようになります。リクルートグループの全員がVMVに込められた企業文化の本質をしっかり理解し、それを体現できるようにしていくことが、国を越えたイノベーション成功のカギです。これを進めていけば、リクルートグループは日本にしっかりしたルーツを持つ、真のグローバル企業になることができると思うのです。

リー・イーティン

李逸庭
IESE ビジネススクール組織経営学教授

ローザンヌ大学(HEC)経営学博士。2006年からIESE(イエセ)ビジネススクールにて、リーダーシップ、クロスカルチュラル・マネジメントをテーマに教鞭を執る。文化と個人の環境適応に関して書いた論文で、同年マネジメントアカデミー最優良国際論文賞を受賞。現在は新たなクロスカルチュラル・マネジメント手法の解明を目指し、従来のセオリーとは異なる方法でグローバルに成功している企業を研究中。出身は台湾、教育はスイスで受け、仕事はバルセロナ、家族との生活拠点はパリと身をもってクロスカルチャーを体現している

2021年04月28日

※事業内容や所属などは記事発行時のものです。