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IMD教授 ハワード・ユーさんのリクルート考

リクルートグループは社会からどう見えているのか。
私たちへの期待や要望をありのままに語っていただきました。

リクルートグループ報『かもめ』2017年6月号からの転載記事です。

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リクルートのビジネスによって資本主義の正当性を取り戻して欲しい

IMDはスイスのローザンヌに本拠地を置くビジネススクールです。世界各地にいろいろなスタッフがいますが、リクルートのことはIMDの日本代表である高津尚志さん(リクルートOB)を通じて知りました。パイオニア精神の象徴のような、革新的で新しいビジネスモデルを日々生み出している会社が日本にあると教えてもらったことがきっかけでした。

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経営陣やマネジメント層の方達とお話しながら、また僕自身がリクルートの研究を続ける過程でユニークだと思ったことがいくつかあります。まずひとつめが、経営層もマネジメント層もマーケットの状況やお客様がどう変化しているのかにとても敏感であること。何か問題が起きた時、大抵の大企業は内向きになる傾向がありますが、リクルートは真逆です。社内的な制約よりも、まず外部環境の変化について興味を持ち、注意を払っている。私は最初そこに感銘を受けました。カスタマー・クライアントにとって何が正しいことなのか、その上で取らなければいけないリスクは何なのか。顧客を起点にビジネスモデルが進化している点がとても興味深いです。

多くの大企業や組織は新商品やサービスをローンチする際、完璧な状態を求める傾向にあります。マーケットからのフィードバックを聞こうとしなくなり、内向きの傾向が強まり、サイロ化(組織が孤立すること)を招く例もあるようです。リクルートはかなり早い段階から実験的な開発を試みていますね。社内に閉じずに外部に目を向け、カスタマーの目的にあったものを作ろうとしている。そういった現場レベルの改善に加え、経営層も積極的に新会社を作るなどのダイナミックな改革も進めています。

つまり、トップダウンでもなくボトムアップでもなく、レイヤーが変わってもさまざまな組織がそれぞれイノベーティブに動いている。こうした動きこそが、常にマーケットの変化に合わせたリクルートの進化を可能にしているのだと思います。

一般的に、ひとつの状況下で強みになっているものは、他の状況下ではむしろ足を引っ張る制約要因になり得ると言われています。リクルートは先述したような強みを活かしながら、日本において圧倒的な強みを構築してきました。今グローバル化を推進されている真っ最中だと思いますが、海外へ出ていく時に、こうした日本で培った強みのどこかを調整する必要が出てくると思います。ビジネスモデルなのか、振る舞いなのか、ロジックなのか...。まずは自分達の強みを自覚すると共に、国内における成功体験に捉われず、海外において必要な変革を進めることが重要だと思います。

どんな人であっても、イノベーターとしての役割があります。どんな仕事をしていても、既存の現状維持に留まるのではなく、このプロセスは本当に必要か、もっと生産性高くできないのか、バリューチェーンのこの部分ではもっと価値を出せるのではないか、そんなふうに高い当事者意識を持って日々の仕事の改善を続けて欲しいと思います。この時、自社の領域だけでなく、他の領域や業界のライフサイクル、他社の活動などを注意深く見ていく必要があると思います。ただし、他社を盲目的にベンチマークするということではなく、何が原因で何が起きているのかを突き詰めて学びにつなげていくことが大切です。

今世界を見ると、資本主義が正当性を失ってきている状況にあると思います。それはなぜかというと、収入や所得格差が広がっていますし、社会的流動性も低下しているからです。そんな状況下だからこそ、皆さんのビジネスを通じて、再び資本主義が正当性を取り戻せるようになると素晴らしいと思います。具体的にいうと、皆さんが中小企業支援を続けることで現場の生産性が上がり、本来のコア業務に集中できるようにすること、そして自分達の地元で雇用を生み出せるようになること。地元にベースを置いている企業が、自分達は平等な環境のなかで競争ができていると認識できるようになった時、リクルートが介在する価値があったと言うことができると思います。そして、それをさらにスケールアップさせ、世界全体に価値提供し、便益が広がるようにして欲しい。期待しています。

Howard H. Yu

IMD教授

2011年にハーバードビジネススクールにて博士号を取得。現在はスイスにある世界トップクラスのビジネススクールInstitute for Management Development(IMD)で、戦略とイノベーションの教授として、幹部育成プログラムを専門に教えている。15年には、Poets & Quants社が主宰する「世界のU-40ビジネススクール教授40名」に選ばれた他、『Fortune』や『Forbes』『South China Moring Post(SCMP)』等の一流ビジネス誌で定期コラムを執筆。また、マネジメント開発領域におけるヨーロッパ最大の組織European Foundation for Management Development(EFMD)が主宰する「Case Writing Awards」を13年と15年に受賞。直近では、『Financial Times』が企画するビジネス界のオスカーと呼ばれる「Case Center Awards&Competitions」を受賞した。

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2017年12月26日

※事業内容や所属などは記事発行時のものです。